ゾウムシの吻(口吻)

2008年6月5日 小島 弘昭


ゾウムシの特徴である口吻は頭の一部(頭部複眼の前方部)が伸長したもので,その先端に噛むタイプ(咀嚼式)の口器を備える.ゾウムシはこの口吻を用いて他の甲虫が利用できなかった植物器官内部を摂食・利用するよう進化した.さらに,ゾウムシ類の進化の過程で,この口吻を摂食のためのみならず,雌では産卵の際,植物器官に産卵孔を掘るためにも利用する特異な機能を獲得した.口吻を産卵孔を掘るために用いるようになった多くのゾウムシ類では,産卵管が膜状の構造をしていて,硬い口吻で孔を掘った後,体を180°回転し,腹部先端を孔に押しあて,産卵管を伸長,挿入し植物器官内部に卵を産み込む.そのため,口吻の長い種では,それに比例して産卵管も長くなる.口吻で産卵孔を掘った後,そのまま前進して産卵を行わず,なぜ,180°体を回転させるか,その意味は分かっていない.

ゾウムシ類の中には二次的に口吻を短くしたと考えられるグループも数多く存在し(クチブトゾウムシ亜科など),そのようなグループでは口吻で産卵孔を掘る行動は見られず,産卵はバラバラと産み落とす形で行われたり,樹皮の裂け目,葉を折り合わせた隙間,土中などに行われる.二次的に口吻を短くした根拠として,不必要に長い産卵管を有するグループの存在があげられる(ヒゲボソゾウムシ族,クチブトゾウムシ族など).

一般的に,口吻の長いグループでは,卵を少しずつ丁寧に産んでいくのに対し,口吻の短いグループでは,多数の卵を一機に産む.前者では,ふ化した幼虫が植物組織内で育つのに対し,後者では,土中に潜り根を外側から食害する. 例外的なものとして,長い口吻を有するにも関わらず,二次的に幼虫が植物組織外で生活するようになったグループも存在する(タコゾウムシ族,タマゾウムシ族など).


口吻についての詳しい解説は,以下の文献を参照いただきたい.

  • - 森本 桂ほか,2006.ゾウムシのおもしろさ—ハナはなぜ長い—.昆虫と自然,41(6): 1-23.